2024/8/28
今、将来の妊娠を考える女性の間で、卵子凍結への関心が急速に高まっています。女性有名人がSNSで卵子凍結済であることを公表したり、東京都が2024年度も卵子凍結に係る費用等の助成を継続、さらに規模を拡大(2023年度の10倍の2,000人へ)することも話題になりました。
また、年収500万円以上の女性会社員(バリキャリ女性)106名を対象に行った卵子凍結に関する意識調査でも、興味深い結果が出ました。
Q1将来に備えて自身の未授精卵子を凍結するという選択肢を考えたことがありますか。
「将来に備えて自身の未授精卵子を凍結するという選択肢を考えたことがある」女性は45.2%と、注目度の高さがうかがえました。
Q2卵子凍結に関する正しい知識を持っていると思いますか。
Q3Q2で「あまりそう思わない」「全くそう思わない」と回答した方に質問です。将来に備えて卵子凍結に関する正しい知識を取得していきたいと思いますか。
ところが、「卵子凍結に関する正しい知識を持っていると思わない」女性は75.5%
うち73.8%の女性が「将来に備えて卵子凍結に関する正しい知識を取得していきたい」と回答。
出典:株式会社メンタルヘルステクノロジーズを元に作図
https://mh-tec.co.jp/
このことから、卵子凍結への注目度は高まっているものの、正しい知識が浸透しているとはいえず、多くの女性がこれから将来に備えて正しい知識を取得していきたい、という現状がありました。女性の生き方が多様化するなかでも、現代の医学では、妊娠にタイムリミットがあることは変わりません。将来後悔しないためには、知識を得ること、自分に合うライフプランを立てることも必要かもしれません。この記事では、今だから知っておきたい、卵子凍結に関心が集まる理由や、卵子について、卵子凍結のメリット・デメリットを解説します。
今、卵子凍結に関心が集まる理由は?
女性の社会進出、社会的立場の変化、晩婚化の影響が考えられます。広く知られているように年齢と妊娠率には大きな相関関係があり、35 歳前後を皮切りに妊娠率の減少や流産率の増加が顕著となってきます。※1
年齢を重ねると卵子の老化が進み、妊娠が難しくなることから、今はキャリアを優先したい、まだパートナーはいないが、将来的に子どもを望んでいる女性の選択肢のひとつとして関心が集まっています。
※1 日本産科婦人科学会 2012 年生殖補助医療データブック グラフもこちらを元に作成
卵子の量と質の低下とは?
加齢による卵子の数と質の変化のデータを見ると、卵子の元となる卵母細胞の「数」は排卵が起こり始める思春期頃には約30 万個が残っていますが、加齢とともに減少し、37 歳頃を過ぎると急速に減少します※2
この卵母細胞は生まれる前に作られ、その後、新たに増えることはないため、卵子の「数」を補う効果的な治療は今のところ存在しません。
※2 Baker TG. AQuantitative and Cytological Study of Germ Cells in Human Ovaries.Proc R Soc Lond B Biol Sci. 158: 417-433, 1963 図もこちらを元に作成
一方で、卵子の「質」の低下については様々な研究が進んでおり、加齢による妊娠率の減少の主な原因とされています。実際、若年女性がドナーとなって提供された卵子を用いた場合、加齢によって生産率( 生まれる率) に減少は見られないという治療成績が報告されています。※3
※3 アメリカ疾病予防管理センター(CDC) 2003ART Success Rates in USA グラフもこちらのデータを元に作成
30歳以降、自身の卵子による妊娠数・生産率が下がっ ていき35歳頃から顕著に低下しますが、年齢の若い女性から卵子提供を受けた場合はその低下は見られ ません。 これは女性の妊娠力が低下していく主な原因が「卵 子の老化」によるものであり、それは 35 歳以降顕著に増えることを示しています。
卵子の質の低下を引き起こす原因とは?
これまで卵子の老化には、ホルモンの不足や加齢による卵母細胞の残数の不足が要因として考えられてきましたが、近年、「顆粒膜細胞」の機能不全がその主要因として注目を集めています。顆粒膜細胞は卵子を取り囲む細胞で、卵子と情報交換しながら卵子の成熟等の機序調整の役割を担っています。加齢とともに酸化ストレス(活性酸素)が増加することによる顆粒膜細胞の機能低下が卵子の質低下を引き起こす大きな原因の一つと考えられているため(※4)顆粒膜細胞の保護を行うことが不妊治療においても重要となることが考えられ、研究が進められているのです。
参考)宇都宮洋才博士研究資料を元に作成
※4Melatonin protects oocyte and granulosa cells from reactiveoxygen species during ovulation process within the follicle.(TAMURA HIROSHI)
卵子の質の低下は、細胞死や変性卵の増加を引き起こします。一般的に、変性卵は卵子凍結をおこなうことができません。つまり、せっかく採卵しても凍結できる卵子の数が少なくなってしまうのです。
将来に向けて卵子凍結をおこなう場合も、自然妊娠を目指す場合も、効率的に妊活を進めるためには、卵子の老化に対策することが重要といえます。
卵子の老化は対策できる?
これまで対策が難しいとされていた卵子の老化、今は対策できる時代です。前述の顆粒膜細胞の保護活性化に有効なエビデンスが確認された梅有用成分[ウムリン]による卵子の老化抑制作用について、 2014 年に日本授精着床学会雑誌にて研究論文が掲載されています。また、2022 年10 月~ 2023 年1 月と2023年6月~8月の2回に渡り、20~40代の方が参加した飲用試験では、たった1~3ヶ月で74%の卵子に改善がみられました。
卵子凍結のメリットとデメリット
それではここから、現代女性の新たな選択肢ともいえる卵子凍結のメリットとデメリットについて見ていきましょう。
メリット
将来の妊娠の可能性を確保
年齢が若いうちに卵子を凍結することで、将来の妊娠の可能性を高めることができます。
キャリアやライフプランの柔軟性
妊娠のタイムリミットに焦らず、仕事やパートナー探し等、ライフプランに余裕を持たせることができます。
デメリット
費用が高額
卵子凍結には高額な費用がかかり、すべて全額自己負担となります。クリニックにより異なりますが、一般的な相場として、採卵に20万円~50万円、卵子凍結1個あたり1~5万円、凍結保管料に1年ごと2~3万円の費用がかかります。自治体によっては助成金が支給されることもありますので、ぜひ調べてみてください。
身体的負担
卵子採取のプロセスは、ホルモン注射や手術を伴うため、身体的に負担がかかります。また、ホルモン治療には副作用もあります。
成功率の保証がない
卵子凍結の成功率は個人差があり、全ての卵子が解凍後に正常に機能するわけではありません。年齢や健康状態によっても成功率が変わります。
参考)日本産科婦人科学会「ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ」内の出典:Liang T.and Motan T.Advances in Experimental Medicine and Biology.2016 および Practice Committees of ASRM.Mature oocyte cryopreservation: a guideline.Fertil Steril.2013 を元に作成
卵子凍結の流れ
次に卵子凍結の流れについて、具体的にご紹介します。
また、日本より先行して始まった海外の例では、卵子凍結をおこなう女性の80%以上が35歳以上で、平均年齢は35歳~38歳です。卵子凍結をした女性のうち、その後妊娠した方が約20%、そのうち凍結卵子の使用率は5.2%~7%妊娠した人の半数以上は凍結卵子を使用せず、妊娠を計画した時点でのご自身の卵子で妊娠しています。結果として、凍結した卵子の9割以上が使われていません。※
このことからも、卵子凍結する場合も、妊娠を計画した時点での卵子も、どちらの場合でも卵子の老化対策をしておくことは必須といえます。
引用)日本産科婦人科学会 ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へより
まとめ
卵子凍結は、将来の妊娠に備えるための重要な手段となり得ますが、そのためには正しい情報をもとに、ライフプランや健康状態、将来の目標に照らして最良の選択をすることが大切といえます。
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