ウムリンの用途研究
梅抽出物ウムリンはその抗酸化力により、ヒトの不妊治療に
利用されている他、畜産・漁業分野でも幅広く活用されています。
Study 01
不妊治療現場で活かされる
ウムリン
レディースクリニックでの不妊治療において
ウムリンは実際に利用されています。
晩婚化に伴ない、不妊率は上昇の一途をたどり、夫婦に悩む夫婦は6組に1組と言われています。不妊治療に取り組む患者の高齢化も進み、加齢に伴う卵子の老化、卵子数の減少が無視できない問題となっており、不妊治療の大きな障害となっています。卵子の老化は酸化ストレス(卵子の錆びつき)によるところが大きいとされています。
良好な卵子が得られないと、体外受精-胚移植・顕 微授精による生殖補助医療(ART)でも妊娠できない事例が増えることから、良好な卵子を得ることが何より大切であると言えます。
抗酸化作用のある特定の梅抽出物umulinがヒトの卵子の老化対策にも有益ではないか?という仮説から、レディースクリニックとの共同研究が始まりました。
卵子の老化とは
高齢になると卵子の成熟にかかわる排卵時に生じる 酸化ダメージを受けやすくなり、変性卵が増えます。
レディースクリニックとの共同研究では、特定の梅抽出物 umulin のヒトへの投与で受精率、妊娠率が向上したことから、 不妊治療成績の改善効果の可能性を示しました(論文1)。
細胞レベルの試験で、梅由来成分3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドに酸化ストレスによる卵巣顆粒膜細胞の細胞死を抑制すること、卵巣顆粒膜細胞からの女性ホルモン(エストラジオール)産生を促進することが明らかとなっています(論文2)。
梅抽出物を使った臨床試験
平均受精率を比較すると、無添加よりも DHEA、DHEAのみよりもDHEA&umulinの方が有意に高くなりました。
(論文1) 宇都宮智子他、ART反復不成功 , 難治性不妊患者に対する dehydroepiandrosterone・脱塩濃縮梅酢投与での ART 治療成績向上の可能性について 日本受精着床学会誌31(1):61-64,2014(論文2)Ryohei Kono 他、3-4Dihydrooxybenzaldehyde Derived fromPrunus mumeSeed inhibits Oxidative Stress and Enhances Estradiol Secretion in Human Ovarian GranulosaTumor Cells ACTA HISTOCHEMICA ET CYTOCHEMICA,47, 103-112, 2014
実際の臨床現場では、umulin の使用により、卵を包み卵を育てる「顆粒膜細胞」が使用前より明らかにきれい(細胞死が極めて少ない状態)になっていることから、有効成分 umulin が、卵子を育てる最重要な細胞で、卵のグレードを決める指標とも言われる「顆粒膜細胞」を酸化ストレスから守ることで、卵の老化を防いでいると考えられています。
出典:宇都宮洋才博士研究資料
Study 02
卵の品質向上に成功した
紀州うめどり・うめたまご
ウムリン投与により、ニワトリの卵の品質向上が確認されました。
特定の梅抽出物ウムリン(以下 BX70)を飼料に添加することで、ブロイラーでは免疫性や産肉性が向上し、採卵鶏では免疫性や産卵性、卵質が向上することが今までの研究で明らかになってきました。
現在、この技術を活用して生産された鶏肉および鶏卵は、それぞれ「紀州うめどり」「紀州うめたまご」というブランドで販売されています。
今回、BX70 の飼料添加が鶏肉および鶏卵の成分や特性に及ぼす影響を中心に分析を行いました。
材料および方法
ブロイラー試験
- 試験期間
平成17年12月21日から平成18年2月8日(0日から49日齢)
試験解体は平成18年2月9日(50日齢)に実施 - 供試鶏
チャンキー - 試験区分
0.05%区 22日齢よりBX70を0.05%添加した飼料を給与
0.1%区 22日齢よりBX70を0.1%添加した飼料を給与
対照区 通常飼料を給与 - 供試羽数
各区とも30羽ずつ(オス15羽、メス15羽) - 給与飼料
表1のとおり - 飼養管理
ウインドレス鶏舎にて飼養。飼育密度は 1 坪 30 羽。飼料・飲水とも自由接種。 - 調査項目
育成率、生体重、飼料消費量・飼料要求率、性能指数、解体成績、マクロファージ走化性、官能評価検査
鶏肉理化学的検査(50日齢)
35 キログラム加圧保水力(生肉を1平方センチメートルにつき35キログラムで1分間加圧した時の肉片と肉汁の面積比)
伸展率(生肉を1 平方センチメートルにつき35キログラムで1分間加圧した時に肉片が拡がる程度)
加熱損失(肉を70度で1時間加熱したときの重量の変化)
圧搾肉汁率(加熱肉を1平方センチメートルにつき35キログラムで1分間加圧した時の重量の変化)
保水性(生肉を4度で保存した時の重量の変化)
剪断力価(加熱肉を噛み切る時に必要な力)
採卵鶏試験
- 試験期間
平成17年5月16日から平成17年8月1日(312日から389日齢) - 供試鶏
ボリスブラウン - 試験区分
0.07%区試験期間中、BX70を0.07%添加した飼料を給与
0.14%区試験期間中、BX70を0.14%添加した飼料を給与
対照区 通常飼料を給与 - 供試羽数
各区とも25羽ずつ - 給与飼料
表2のとおり - 飼養管理
解放鶏舎にてケージで単飼。 飼料・飲水とも自由摂取。 - 調査項目
育成率、産卵率、平均卵重、産卵日量、飼料消費量・飼料要求率、体重、卵質(卵殻破壊強度、卵殻厚、卵形係数、ハウユニット、卵黄色、卵殻色)、鶏卵成分分析(ビタミン、ミネラル、アミノ酸、有機酸、脂肪酸組成など)
統計分析は、両試験ともDuncanの多重検定で解析した。
結果
ブロイラー試験
- 試験期間
平成17年12月21日から平成18年2月8日(0日から49日齢)
試験解体は平成18年2月9日(50日齢)に実施 - 供試鶏
チャンキー - 試験区分
0.05%区 22日齢よりBX70を0.05%添加した飼料を給与
0.1%区 22日齢よりBX70を0.1%添加した飼料を給与
対照区 通常飼料を給与 - 供試羽数
各区とも30羽ずつ(オス15羽、メス15羽) - 給与飼料
表1のとおり
鶏の自然免疫応答を調査するため、血液中から採取したマクロファージの走化性を測定した。BX70添加前の21日齢では各区間に差はみられなかったが、42日齢では対照区に比べて0.1%区および0.05%区が有意に高くなった(表8)。
鶏肉の理化学的性状として35キログラム加圧保水力、伸展率、保水性、加熱損失、圧搾肉汁率および剪断力価を測定した。35キログラム加圧保水力および伸展率は対照区に比べて0.05%区および0.1%区が大きくなる傾向を示した。保水性についてはBX70添加区が対照区より有意に高い値を示した。
加熱損失は0.05%区が高くなり、圧搾肉汁率は0.05%区が低い傾向であった。また、剪断力価は対照区に比べて0.05%区および0.1%区が有意に高くなった(表9)。
官能評価検査には0.1%区と対照区について実施した。4度で24時間熟成させたむね肉(浅胸筋)を5%食塩水に1時間浸漬後、ホットプレートにて焼き一口大に切り出したものを試料とした。32人(男性23人、女性9人)の嗜好型パネルが2種類の試料を自由に試食し、対照区に対する0.1%区の評価あるいは 0.1%に対する対照区の評価をアンケートにて回答した。評価項目は香り・味・軟 らかさ・多汁性(ジューシーさ)・総合評価の5項目で、各項目について良い(2点)・やや良い(1点)・差がない(0点)・やや悪い(マイナス1点)・悪い(マイナス2点)の5段階で評価し、集計したものを評価点とした。
図2に対照区に対する0.1%区の平均評価点を示した。5項目のうち香り、味、総合評価の3項目で、対照区に対する0.1%区の評価が有意に高くなった。
出典:和歌山県ホームページ
(https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070100/070109/gaiyou/005/gaiyou/005/seika/koukan73.html)
和歌山県 畜産試験場 養鶏研究所と弊社の共同研究結果です。
採卵鶏試験
鶏卵の成分分析は0.14%区と対照区で実施した。まず、10羽分の全卵を混合したものを1検体としてビタミン(A、B1、B2、B6、E、ナイアシン、葉酸、パントテン酸)、ミネラル(リン、鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、マンガン)、アミノ酸、有機酸(クエン酸)、脂肪酸組成、コレステロールを分析したところ、鉄、ビタミン A、葉酸、パントテン酸で0.14%区と対照区の分析値に差がみられた。これらの成分は卵白にはほとんど含まれていないことから、卵黄中の含量について6検体ずつ分析を行った。
図3から図6に分析結果を示した。卵黄中のビタミンA、葉酸、パントテン酸で 0.14%区が対照区より有意に高い値を示した。平均すると、対照区に比べて0.14%区がビタミンAで約1.04倍、葉酸で約1.29倍、パントテン酸で約1.11倍多く含まれていた。
結果
今回、BX70をブロイラーおよび採卵鶏の飼料に添加したときの、生産物(鶏肉・鶏卵)に与える影響を調査した。
その結果、鶏肉では保水性の向上および剪断力価の増加が認められた。保水性が向上したことで鶏肉を陳列した際に浸出するドリップが減少し、商品価値の向上につながると考えられる。剪断力価の増加については鶏肉の歯ごたえが増加したとも考えられるが、官能評価検査の結果では逆にやや軟らかいと評価されているので今後検討する必要がある。官能評価検査では、香りと味で特に高い評価が得られており、臭みの少ないおいしい鶏肉として紀州うめどりのイメージアップにつながると考えられる。
一方鶏卵では、詳細な成分分析により卵黄中のビタミンA、葉酸、パントテン酸の増加が認められた。このうち葉酸とパントテン酸はともにビタミンB群で、いずれも皮膚や粘膜の強化といった免疫系に関与しているが、特に葉酸については、妊娠している女性に必要な栄養成分として最近注目されており(不足すると胎児奇形の原因となることがあるため)、紀州うめたまごの大きなアピールポイントになると考えられる。
Study 03
うめ鮎を始めとした
養殖魚への利用について
養殖アユの生産が盛んな和歌山県での
ウムリン利用による高品質アユの生産例を紹介します。
アユに特定の梅抽出物ウムリン(以下 BX70)を添加した飼料を投与し、鮮度保持能力、肉質、抗病性の向上について検討すべく、研究を行いました。
材料および方法
- 供試魚
供試魚は日高川漁業協同組合で本県産海産アユを親魚として種苗生産された4代目人工種苗で、和歌山県内水面漁業協同組合連合会で中間育成後、冷水病菌フリーであることを確認し、平成22年4月14日より内水面試験地の屋外池(2×5×0.3m、水量約3t)4面で飼育を開始した。開始時の平均体重は8.0gで、試験区として梅抽出物(BX70)を魚体重の0.1%の割合で添加した飼料を投与する梅酢区(以下梅酢アユとする)を2区と通常飼料を投与する対象区(以下対照アユとする)を2区設け、各試験に供試するまで飼育した。給餌率は3~4%とした。 - 冷水病感染試験
9月5日から10月14日にかけて、梅酢アユ(平均体重43.5±8.4g)200尾と対照アユ(平均体重 46.1±11.2g)200尾を屋外池(2×3×0.5m、水深 0.3m、水量約 2t)に別々に収容し、冷水病感染試験を行った。供試菌株は平成17年7月に日高川で採捕されたアユから分離され、10%グリセリン添加改変サイトファーガ寒天培地で3日間培養し、滅菌PBSに懸濁後、50μ1を背鮨後方と側線の間の筋肉内に接種したアユ10尾を感染源として黒色塩化ビニール水槽(直径70×50cm、水深35cm、水量約130㍑)に収容し、この排水を各池に添加した。排水添加は8日目まで行い、8日目、11日目に別の感染源として同様の方法で菌を筋肉内に接種したアユ5尾を直接各池に同居させた。試験は同様の試験区を2組み、すなわち梅酢区2区と対称区2区を設け、屋外池4面を使用して行った。試験期間中は適宜給餌を行いながら死亡状況を観察し、脂肪魚は腎臓から菌分離を行った。水温は14~15℃で推移した。 - 官能試験
梅酢アユと対照アユを取り上げ別々の発砲スチロール容器に氷詰めし、A事業所6人、B事業所2人、C事業所1人により官能試験を行った。被評価者はどの容器にどちらのアユがいれられているか知らされていない状態で、調理前の容姿、色目、艶、調理後の見た目、味について5段評価により評価を行った。
結果および考察
- 冷水病感染試験
累積死亡率の推移を図1に示す。冷水病による死亡は、試験1では10日目、試験2では12日目から始まり、終了時の累積死亡率は試験1では梅酢区で39%、対照区で53%、試験2では梅酢区で31%、対照区で59%であり、両試験とも有意差が認められた。梅酢アユは冷水病に対して抗病性を持つと考えられる。 - K値・TBA値、魚体分析
梅酢アユと対照アユの〆後1日目及び3日目のK値、TBA値の分析結果を表3、4に示す。K値、TBA値は〆後1日目及び3日目ともに両者間で有意差は認められなかった。魚体成分分析結果を表4に示す。生の筋肉では、対照アユが梅酢アユよりも脂質が18.0%高かったが、それ以外の項目では明確な差は認められなかった。焼いた内臓では、対照アユが梅酢アユよりもEPAが24.6%、DHAが9.7%高く、α-トコフェロールはほとんど差がなかったが、葉酸は梅酢アユが対照アユよりも30.0%高かった。アユは塩焼きが代表的な料理方法であり、梅酢アユの塩焼きは内臓も同時に食べることで、葉酸を多く摂取できるものと考えられる。 - 官能試験
官能試験の結果を図3、4,5に示した。調理前の外観では、梅酢アユ、対照アユとも容姿は同じで、色目、艶は両者でほとんど差はなかった。調理後(しお焼き)では、旨みにおいて、梅酢アユでは「非常によい」または「よい」と評価したのが7人であったが、 対照アユでは「よい」と評価したのが3人で差がみられたが、その他の項目で明確な傾向はなかった。調理後(造り)では、旨みにおいて、梅酢アユでは「よい」と評価したのが3人であったが、 対照アユでは「非常によい」と評価したのが3人で差がみられたが、その他の項目で明確な傾向はなかった。
上記のように梅酢アユは、冷水病に対する抗病性や葉酸含有率の向上など、様々な品質向上の可能性が示唆された。今後梅酢添加率と抗病性や食味向上の関連性についてさらなる研究が必要であると考えられる。
なお特定の梅抽出物を利用した養殖業界の研究では、うめ鯛やうめ鮪などの研究も盛んに行われ、品質向上が認められ、ブランドとして高い評価を得ている。
文献
1)平成19~20年 和歌山農林水産統計年報.近畿農政局和歌山農政事務所.2009.
2)伊丹哲哉(2003)産卵性能に及ぼす梅酢の効果2.平成15年度和歌山農技セ研究成果情報.69-70.
3)堅田昌英(2008)梅酢のマダイ養殖への利用試験.平成20年度和歌山農技セ研究成果情報.24-25.
4)アユの放流研究 部会報告第11号.全国湖沼河川養殖研究会 アユ放流研究部会.1989.
5)五訂増補日本食品標準成分表.文部科学省.2005.
6)平成9年度バイオディフェンス機能活用健康魚づくり技術開発事業研究成果実演報告書.日本水産資源保 護協会.1998.
7)伊丹哲哉・上田雅彦・香川高士・吉村幸則(2004)ニワトリの肝臓脂肪および血液生化学成分におよぼす 脱塩濃縮梅酢(BX70)および梅肉エキスの影響.日本家禽学会誌秋季大会号、41.
8)上田雅彦・玉置巧・上杉通(2006)ブロイラーに対する脱塩濃縮梅酢BX70の効果.紅冠.和歌山県養鶏研 究所振興協議会、4-8.
9)和田和男(1990)アユの種苗性と遡河行動.水酸増殖、38、210-211.
10)田中英樹(2007)アユの放流用種苗としての適性を調べる.全国湖沼河川養殖研究会アユ資源研究会報 告書(平成18年度),44-45.
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